■ INIT BRIT LuLu's love love UK contents.    NIGHT AT CRESCENT LOUNGE

 “彼”が、初めて行ったロンドンで過ごした幸せな夜のお話。NURSERY旅行記よりちょっと詳しく再録。

 24時間開いているホテルのラウンジに色々とワケあって夜中2時過ぎにヒョッコリ行ってみた時のこと。
 そこはパブではなく、いわゆる普通のオシャレなバーでして、いくつかのテーブルの他にカウンターがありました。僕が行った時点で他の客はインド系の航空会社のクルー達が数人、テーブルの方に。
 僕はカウンターへ向かいました、しかもド真ん中陣取り(^_^;  僕は“はしっこが好き”なので、普段バーカウンターの度真ん中に座るということはまずないのですが、ちょうどその時にバーテン氏がその位 置でグラスを磨いていたため、あえて端に座って彼を移動させるよりいいのではないか、というヘンな気の使い方をしていたのでした。

 バーカウンターの後にはお約束のように酒瓶が並んでいるものの、入口に出ていたメニューにいくつかカクテルの名前が並んでいたので、その中からオーダーすることにしました。そこに書いてないものをオーダーする勇気がなかったんですな(^_^; で、ちょっとアルコール度の強いものを強烈に欲していたために(笑)、サイドカーを。
 サイドカーというのはブランデーをベースに、コアントロー、レモンジュースなどを入れたショート・カクテル。僕はショート・カクテルというものがあまり得意ではごじゃりません、悪酔いするので(泣)。特に甘いものは普段、絶対に飲みません。でもこの時はしょうがなかったのです、てっとり早く酔いたかったから。

 バーテン氏はあきらかに不審そうな顔をしていました。時間が時間だし、いい若造が一人きりだし。
「いらっしゃいませ。......こちらにお泊まりですか? カードキーを見せていただけますか?」
 あきらかに未成年者だと思っているよう。
「そうだよ。それに酒飲んでいい年齢だよ(笑)。パスポートも見せようか?」
 と、カードキーを提示しました。さすがにパスポートまでは「いいよいいよ」とのこと(なぜかここいらで先方の口調が一気に日本語で言う“タメ口”的なニュアンスになった)。

 で、そのサイドカーをお願いする。
 サイドカーを口にするのはマジ、久しぶり、というか2回目ぐらい。でも、とてもウマかったんですわ。
「これ、おいしい!」
 と僕は、まだちょっとだけ不審顔なバーテン氏に伝えました。酒飲んでいい年齢だとは言っても、まだまだガキであろうコイツとサイドカーというカクテルが不釣り合いで、ビールならまだしも、向こうも“ホントにこれが飲みたいワケじゃないんだろうな”と思ったんだろうという感じ。でも多分、その時の僕がマジ で“ウマい!”という顔をしたみたいで(そりゃそうだ、僕は酒好きだ)。
「で、どうかしたの?」
 という彼の一言から、その現場は思わぬ展開を見せた。

 ちょっと体格が良くって黒い縁のメガネをかけたオシャレなバーテン氏のその言葉に
「ジェットラグらしくって眠れなくなっちゃったから、酒飲んで寝つこうと思ってね」
 と答えると、それならば時間ツブしにつき合いましょうとばかりに、大お喋り大会と化した(だから僕は寝たいと言っているのにー)。
 でも僕が言ったことは100%ウソ。そんな理由でそこへ行ったワケではありませんでした。でも、もしかしたらそのへんまで読まれていたのかもしれない。バーテンという職業の人間には、そういう不思議な力がある人がいるからね。

 話していたのは日本のこと、僕の職業のこととか色々。周辺のオススメのパブ情報なんかも聞いてました。あと音楽のこと。
「このホテルは時々ブライアン・メイが食事に来るよ。QUEENとか好きかい?」
「うん! フレディの家を観に行ったんだよ」
「彼は本当に素晴らしかったね。ブライアンは日本のコインでギターを弾いていたよね」
 など、いろいろいろいろ。
 バーテン氏は、そのバーからそんなに遠くないシェファーズ・ブッシュという街に住んでいて、僕と同い年ぐらいの娘さんがいるそうです。

 そしてなぜかいつの間にかハナシは“寿司”のことへ。
 この時、僕は2杯飲んでいたハズです。これがジンやウォッカだったら準備体操段階レベルなのですが(笑)、サイドカー2杯というのはすでに僕にはかなりキツかった。ショートなので量 だって大したことはないのに。濃厚な味とレモンの酸 味が、僕的には充分許容範囲のアルコール度であるにもかかわらずグワングワン攻撃してきます(笑)。正直言って、ものすごいいい気分でした(笑)。
 僕は英語がベラベラなワケじゃありません。でも酔いのせいでいつもの“ちゃんとした文法で話さねばならぬ ”という意識がブッ飛んでいたために、逆にスムーズに会話が進んでいるという(笑)。コミュニケーションって本来こういうことなのかなあ?
「キミの英語の先生はアメリカ人だろ?」と指摘したのはこのバーテン氏さ(イタタタタタ、その通 りです......)。

 で、寿司。バーテン氏にとっては、あれは料理ではないと言う。
「だって加熱調理をしてないじゃないか」
「いや、れっきとした伝統的な日本料理だってば!」
 と反論すると、バーテン氏はもうインド飛行機クルーも帰ってしまってヒマそうにフロアにいたもう一人のバーテンさんに声をかけた。
「なぁ、おまえどう思う?」
 そのバーテンさんはスペインはマドリード出身の底抜けに明るいタイプの小柄なラテンお兄さん。
「あれはちゃんとキレイに魚をさばいて処理をして手間かけてるよ、あれは立派な料理だよ」
 おっ、スパニッシュ兄さんは僕の味方らしい!
「いや、ツナを生で食べるなんて信じられないね」
「違う違う、あれこそ一番おいしい食べ方だってば!」
 あ、もちろんケンカしてたワケじゃないっすよ(^_^; 双方、かなりこの白熱戦を楽しんでました。
「だってタコとかも寿司で食うとおいしいよ〜、ね?」
「タコおいしいねー!」
 スペイン人もタコを食べる事実に着眼した僕は更にスパニッシュ兄さんをこちら側へ。 バーテン氏も負けずに反論、
「タコは食べ物じゃないよ!!」

 僕は3杯目を飲み初めていたと思います。ちなみに彼らも一緒になっていつの間にか飲んでました(笑)。その時のこと。
「おっ、ちょっと待った!」
 まさにグラスに口をつけたその横から、いきなりレモンを絞られる(笑)。
「入れ忘れちゃったよ。味、ヘンじゃなかった?」
「いや、分からなかった」
「なぁ〜にやってるんすか、先輩〜!」(←スパニッシュ兄さんはこんなニュアンス)
 アナタ達も酔ってきましたね?(笑)。
「そういえばここんとこサイドカーなんて出たことないから作り方忘れちゃったんだよね。お前知ってる? そのへんにマニュアルない?」
   .........。おどけてカウンターの下の方を探しまくる二人。 あのー、すでに僕、3杯飲んでるんスけど(爆)。

「で、この前回転寿司に行ったんだよ」
 なんだオジちゃん、食べたんじゃん。
「クルクルっていう店なんだけど」
 KULU KULU SUSHI。ピカデリーにある有名な所です。
「食べ物がコンベア・ベルトに乗って回ってるんだよ?!」
 あの......だから回転寿司なんだよね(^_^; 
「日本では“KAITEN-SUSHI”っていうんだけれど。“KULU KULU”は、“ROUND AND ROUND”みたいな意味なんだよ」
 ......っていう僕の説明、当ってますか?(笑)

「だってデザートとかまで回ってるんだよ?!」
「そうそう、あれっておもしろいよね!!!」←スパニッシュ兄ちゃん、かなり盛り上がり。
「日本だってそうなの!」
 YO! SUSHIなんてトンカツやドラ焼きや焼き鳥まで回ってるもんな。
「日本料理はヘルシーだしキレイだしとてもいいと思うよ。このホテルにも日本料理屋あるけれど、スパイス・ガールズとかブライアン・メイも時々くるよ......。でもやっぱり私は生で魚を食べるのは苦手」
「じゃぁ何を食べたの?」
「Brown paper Roll! あれはおいしかった」
......しばし考えた僕。それって“かんぴょう巻き”のことだね!(笑)
「でもあれは紙じゃなくって、植物だよ。薄くスライスして乾燥させたヤツを使っているの」
 僕の説明、とてもアヤしい(^_^;
「他にはオムレツもよかったよ」
「日本では、オムレツを食べるとその店のランクが分かるって言われているし、オムレツをチェックする人は通 だって言うんだよね」
 “通”というのが英語でどう言うのか分からなかった僕は、たしか“very familiar about SUSHI”とか“Authority”とか使ってました、かなりアヤしいです(笑)。
 と、とりあえず日英+スペイン寿司バトルも一段落。時計をみれば、あぁ、もうこんな時間。。。
 4回目の「おかわり!」で、大笑いされてしまう。「まだ飲むの?!」という感じで。あぁ、飲むともさ。

 と、マジメな顔に戻ったバーテン氏が突然聞いてきた。
「......で、ホントはなんでここに?」
 やっぱり。で、僕はこれも一期一会みたいもんだ、と話すことにしました。

 この街は昔から憧れていた所で、今回初めてきたけれど、やっぱり僕はここがものすっごい好きになった。もうすぐ東京に帰らなければならないけれど、そこには、いろいろと自分にとってキビしい現実がたくさん待っていて、実はそれがツラくて忘れたくて飲みにきた。
 正直言って帰りたくない。ずっとここにいたい。それに帰ってしまったら、今度いつ戻って来れるのか本当に検討もつかない。
 ......僕はそんなようなことを、しどろもどろの英語で一生懸命話しました。もちろんそれが原因の全てではなく、一番ツラいことはさすがに話せなかったんだけど、もちろんそれらも正直な気持ちでした。
「またロンドンへ来るのは、そんなに難しいことなの?」
「僕は仕事も持っているし、それに資金面のこともあるから難しいよ。今回も、とても苦労して休暇を取ってきたんだ」
 そんな僕を前に、彼はちょっとだけ考えていました。
「いや、またロンドンへ遊びにくることも、ロンドンで働くことだって難しくないさ、彼みたいに」
 と言って、フロアのテーブルを直していたスパニッシュ兄さんをまた呼び寄せました。
「彼ははるばるスペインからロンドンへやってきて、ここで働いているんだよ? トーキョーから君がここへ来て働くことだってできるさ。試験とかを受けてみたらどうだい?」
 彼もそれがそんなたやすいものでも何でもないことは充分、承知の上だったハズです。でもその心遣いと、スパニッシュ兄さんの笑顔が、かなりグサッとココロに刺さりました。嬉しかったです、淋しかったです、マジで。

 そしてそんな僕へのトドメの一言。
「今キミが座っているその席あるだろ? その隣」
 と言って彼はカウンターから身を乗り出して僕の左横の席を差しました。
「そこは、ブライアン・メイが来た時に必ず座る席なんだ。だからその隣のその席は君の席。君もまた絶対に戻ってこれる。戻っておいで、ロンドンに」
 僕はうなずいたまま、何も言えませんでした。目と目の間がスゴく痛くて。そんなこと言われたら、ますます僕は帰りたくなくなっちゃうよ......。

 部屋へ戻ることにしました。時計を見ると、朝の4時をとっくに過ぎている。
「明日は何時から朝食なの?」
「7時から」
「これでもうよく眠れるかな?」
 ......だからバーテンという職業の人間が僕は大好きだ。
「うん、ぐっすり眠れそうだよ」
「3時間ね(笑)おやすみ」
「おやすみ! ありがとう、楽しかったです」

 平静を装って、僕はしっかり歩いてバーを出ました。そしてリフトの並んでいるエリア、もうバーからは見えない所へ来た途端......崩れました(笑)。リフトの中でも立っていられないし、涙はどんどん溢れてくる。目をあけても閉じても世界がグルグル激しく回転してて、どっちが上か下か右か左か判断できない。
 やっとのことで部屋に戻り、着替えてバスルームへ直行、顔を洗った所までは覚えている...んだよな。

 以来、僕はサイドカーというカクテルを本当に飲めなくなってしまった。でもあのバーへもう一度行ったら...オーダーするだろうな。
 後日談。酔いが覚めて正気に戻った時、ふと手元のレシートを見ると、どう考えても実際に飲んだ量 より少ない数で伝票切ってありました。ありがとう!(←ただ彼らも酔っ払って計算できなくなってただけ???)

 

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